Social Care Design

「私たちは常に“ひと”を観て、そして明日をカタチにします」

BLOG

2015.11.06

無知の知~国際福祉機器展の視察を振り返って~


無知の知とは、哲学者ソクラテスの言葉。
これとは次元が異なるが、国際福祉機器展を視察する中で
「いかに自分が解っていないか」を知る機会となった。

10月7日、某ICT業界の研究員の皆さんとトリニティ(株)で運営を支援している
ソーシャルケアデザインπ型モニター*の皆とともに会場をまわった。
*π型(パイ型)モニターとは複数の専門性をもつ、30代の若手を中心とする
介護・医療・子育ての現場経験有識者。


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集客は例年以上。数々のブースには、最先端の技術を駆使したデバイスやアプリ、そして日本の業界の歴史を感じさせる介護には欠かせないモノ達が立ち並ぶ。
バリアフリーやユニバーサルデザインの視点で開発された輝かしい商品も。

大手住宅設備系のブースでは、施設、個人宅含めて介護者をケアできるユニットバスの提案。
風呂桶を跨ぐ際に楽な、フラットな風呂の淵や両脇のベンチ。
被介護者も作業しやすい広い洗い場。
カラダへの負担が軽減され、綺麗に洗える面の広いシャワー。
どれも知恵と工夫がつまった新作。

私が微に入り細に入り見ていると「これじゃ使いづらい~」と、
後方からπ型モニターのおひとりから声が飛んだ。

彼は30代ながら、福祉施設長として経営と現場をつなぐ要職にある辣腕介護マネージャー、
杉本浩司さん。

私の「?」に彼は、
「洗い場が広いとそれだけで転倒の危険が増してきます。
この広さをとるなら、バスタブの奥に『人がひとり入れるように』して二人でケアできるほうが被介護者の作業がスムース。介護者の腰も痛めるリスクが軽減します。」と、
あっさり回答。

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広い洗い場と奥につまったバスタブ。
この広さがあればバスタブの奥にスペースをとると介助はよりスムースになるだろう。


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身体の洗浄だけでなく、寒さの負担を感じさせないシャワー

見渡せば、バスタブのモノの改良・改善はあるものの、現場の動きまでを想定した開発アイテムは未だ少ない。

加えて彼はこう付け加えた。
「最近は介護者の腰の負担を軽減しようとパワードスーツが出ていますが、その装着で時間がかかると現場では使用のリアリティは無くなります。
介護は時間勝負なんです。
こういう開発をする皆さんに、介護現場のスピード感や作業の優先順位がなかなか理解して頂けないんです。
そもそも、日常の移乗介助等は、腰をはじめカラダに負担をかけないで『てこの原理』でできることが良い介助。
この基本ができないままにパワードスーツのサポートに頼ると、その介護士は成長できないし・・・」


無論、このパワードスーツなどの機器も進化しており、日々簡易装着についても研究を重ねて成果が出始めているのであるが、新たなデバイスは、その取り入れ方に『介護の全体のビジョン』がなければ、
単に作業を改善するという『点での問題解決』ないしは『スペック競争』に陥ってしまう。

私は日頃、プロダクト開発を通じて、ユーザーニーズやインサイトの深掘りをやっているつもりであるが、この分野はまだまだ勉強不足なことが山積み。
杉本さんの何気ない言葉に詰まった、ほんのちょっとした・・・とはいえとても大切なことが全然目に入っていない。

ソーシャルケアデザインの活動でπ型モニターの皆と一緒にいると自分の知らなさが、つくづく分かってくる。
だから、この活動はとても楽しい。

湯浅保有美 Hoyumi Yuasa

トリニティ(株) 代表取締役社長 / デザインプロデューサー

イタリアのデザイン大学院のドムスアカデミーと三菱商事、内田洋行のジョイントベンチャーである「ドムスデザインエージェンシー」の立ち上げを経て、同社の解散(=リストラ)と同時に同僚3人で1997年に会社設立。
その後、元アンダーセンの名物コンサルタントであった伊達仁人と出会い、互いの専門性を融合させて日本で数少ないデザインコンサルティングをやっていこうとコンサル機能を強化。
2012年には、現在のソーシャルケアデザインの代表である須藤順と、とある勉強会で意気投合し介護や福祉、医療そして子育てという現場の解決をデザインやリサーチ、ワークショップのノウハウで実現してこうと、この「ソーシャルケアデザイン」の活動を開始した。
ソーシャルケア分野への新しいアプローチを投げかけるべく日々奮闘。